ホットロード

    作 者:紡木たく
    全巻数:4巻
    出版社:集英社
    初版年:1986年12月
ホットロード


 中二の宮内和希(みやうちかずき)は母親と二人暮しだが、結婚に失敗した母親との生活は思春期の和希にはしっくりいかない。
 そんな折、友達の絵里(えり)に誘われて湘南にでかけ、暴走族"NIGHTS"のメンバー春山と出会う。春山も和希もお互いのことが気になり、やがてかけがえのない存在になっていく。

 中三になった和希は、母親との関係に耐え切れずに家出をする。一方春山は"NIGHTS"の総頭であるトオルから自分の後釜として推されることに。
 その頃、新宿の「漠統」というグループが"NIGHTS"をつぶそうとして挑発をしてくる。春山は受けて立とうとし、仲間がこれを諌めるが、和希は春山の身の危険を案じる。

 総頭を引き継いだ春山は、「族」のリーダーとしての自分、たぎる情熱の自分、大切な和希の為の自分、それぞれの狭間に揺れていく。


 かみそりのように研ぎ澄まされた感性と、ガラス細工のように脆い繊細さ。母親の女としての人生と愛の模索など、まだ幼い娘には理解できずに疎外感に苛まれる。家庭とか家族とか、ひいては人間同士の絆に飢えていた和希は、"本音"で語る若者達に心惹かれ交わろうとする。それがたまたま暴走族だった。

 和希が春山に傾倒していくプロセスと、春山が真剣に和希の人生を考え、危険な己から敢えて遠ざけようとするストイックさは、話のコアでもあり感動的だ。和希は、自分を傷つけることが愛する人を傷つけることに通じることを、春山と自分の関係で知ることになる。これが伏線となり母親を許す瞬間が印象的である。

 紡木たくの作品を読んでいつも思うのは、映画を劇場のスクリーンで観るような「深い間」の存在である。文章ではなく画で読ませる「間が」存在するのだ。それも心象的な風景で。
和希と春山も、"NIGHTS"を取り巻く街や人といった"風景"が丹念に描きあげていく。

 母親との関わりやトラウマをテーマにした「かなしみのまち」、常識、非常識、既成の価値観やモラルとそれを超越したヒューマニティーがテーマの「机をステージに」、それぞれメッセージが相関したこの3作をあわせて読むと面白いだろう。

作成:02/04/19 加筆修正:02/05/03

当ページの画像は、紡木たく作、集英社発行の「ホットロード」1巻,2巻よりスキャンして使用しております。他に転載及び使用されることは堅くお断りします。