里中満智子

積乱雲

 「積乱雲」「わが愛の記録」「アカシア物語」「ミセス=ブラウンの青春」 「クロイツェルソナタ」「水色の雲」
「SEE YOU AGAIN」 以上、全て"戦記もの"の7作収載

「積乱雲」
 愛する者が特攻隊員として散っていくまでの時間と、彼らの思い出を胸に抱きながら戦後を生きていく3人の女性のストーリー。戦場へ旅立つまでの第一部「その日まで・・」、残された彼女達の時間をなぞる第ニ部「その日から・・」、それぞれ一人一章の合計六章からなる。
 夫達が出撃していく基地と日時を、唯一3人が共有しているということ以外は、ストーリーはまったく接点が無いが、3人の"物語"の折り返し地点として束ねたところに構成のうまさが光る。

 設定や登場人物こそ違えどもテーマは一貫しているこの7作は、いささかもてあますくらいの強烈なメッセージをもって訴えかけてくる。里中満智子の作品を一度でも読んだ人ならたじろがないだろうが。
 正直言って個々の作品の論評は、つたない私の文章ではおこがましい気がする。てらいも無く、掛け値無しの、また気高く美しい愛を描きあげることが、「漫画は文学を超えられる」という里中満智子の持説を証明しているだろう。ストーリーの随所にちりばめられる"生"と"死"を通して里中は何を言いたかったのか。読む者がこれほど素直にテーマについて理解できるものは無い。男女の愛を描いた向こうにあるものを渾身の思いで書き上げたということが感じられる。
 古いと言われれば確かに古いかもしれない。しかし、漫画=コミックというものが、かつての意味の無い娯楽性の枠組みから一人歩きしてしまった昨今、単なる"商品"としてのみ生産されるものとは一線を画した作品であると思う。こういった作品は是非読み継がれていって欲しいものである。
作成:02/12/12