彼の手も声も

    作 者:いくえみ綾
    全巻数:4巻
    出版社:集英社
    初版年:1989年12月
彼の手も声も

あらすじ

 高2の水内奈緒(みずうちなお)は内気な美術部員。親友の明世(あきよ)を通じて、明世と同じ陸上部の苫谷健司(とまやけんじ)と知り合い彼に惹かれていく。明世もまた健司のことを好きだが、健司は奈緒を選ぶ。
 健司のことで頭が一杯になる奈緒と、そんな彼女に戸惑いを隠せない健司の間の静かながらも情熱的なラブストーリー。

感想

 設定が極めてナチュラルである。札幌近郊の高校生を主役にし、街並みや校舎、市バスなど、コマのすみずみまでありふれた風景で満たされており、下手な演出は一切ない。それだけに、平凡な主人公2人の青春の想いが引き立てられている。

 奈緒との関係、部活の陸上、変わっていく友人、自分の将来、全てに不安で背伸びをしようとあがく健司。自らの殻から抜け出せずに健司にすがることしかできない奈緒。少年・少女から大人の入り口へのそれぞれの成長の足取りで話は進む。

 待つ女、強く逞しくやさしい男、一昔前の日本人の恋愛スタイルのお手本的なものを示唆させる部分がやや感じられたものの、青春期の心の混迷を説くには納得のいく作品である。先にも述べた"自然さ"とあいまって、主人公に感情移入しやすいといった点でも優れている。事実、健司はどこまでもカッコ良く、奈緒は可憐で愛おしい。

作成:01/12/24 加筆修正:02/05/04

当ページの画像は、いくえみ綾作、集英社発行の「彼の手も声も」1巻,3巻よりスキャンして使用しております。他に転載及び使用されることは堅くお断りします。