夢かもしんない

    作 者:星里もちる
    全巻数:5巻
    出版社:小学館
    初版年:1996年6月
夢かもしんない


 コンピューター販売会社に務める妻子持ちの加勢は、部下に慕われ業績もまずまずの中堅社員。仕事は誠実で顧客に評判が良いが、家族と向かい合う時間が少なく夫婦仲は冷えている。
 そんな加勢のところに、ある日突然女の子の幽霊が出現するようになる。「ハッピーにしてあげる」と言いながらたまに現れる彼女について、加勢はふと少年時代の思い出を遡り、かつて憧れていたアイドル歌手「夢野すみれ」、事故で死んでしまった彼女が幽霊の本人であることに気がつく。
 加勢の妻は、知人が興した事業に誘われて娘と共に長野へ行くことになり、彼の一人暮らしが始まる。幽霊のすみれは加勢以外には姿形も見えないし話も出来ないが、何とかして加勢をハッピーにしたいと気を揉む。部下の女子社員、佐藤との不倫についても何とか二人をくっつけようとやっきになるすみれをよそに「大人になって分別を持った」加勢はなかなか冷静さを失わない。

 生前のすみれにとって純粋無垢な加勢少年との出会いは、空虚な芸能生活のジレンマへ心温まるあかりを灯していた。だが、なかなか売れなかったすみれはマネージャーとの確執や、他人をハッピーにしなければならない自分自身が「ハッピーでない」ことに嫌気がさし、酒に溺れる日々。テキーラをあおったある日、風呂場で死亡。熱烈なファンであった加勢少年はショックで川に飛び込みすみれのことを記憶喪失。これが真実であった。

 仕事の都合で地方の工場へ赴くことになった加勢であったが、幽霊のすみれは生前行ったことのある所しか行けない。すみれの気持ちとすみれへの気持ちを考えた彼は遠距離通勤を始めた。持ち前の責任感と情熱で仕事にも手を抜かないが疲労は蓄積し、とうとう倒れてしまう。そんな彼を見てすみれは「加勢くんを本当にハッピーにするためにはどうしたら・・・」と悩む。


 いいなぁ。こういうストーリーって。理屈抜きにしみじみしました。

 女性からは「男は社会でやりたいことやって浮気して昔の純情に浸ってずるい」と一刀両断されてしまうかもしれないが、それでもやはり加勢少年の純情とすみれの関係は男にしかわからない世界。いくら言葉で説明しても伝えきれない世界。

 我慢を強いられる大人の世界へふと自己矛盾を感じた加勢が呼び起こしたかもしれないすみれの霊との別れは、現実を見つめ直す加勢の新たなる出発点になるのだが、もはや涙無しでは読めないラストが待っている。ほろ苦い思いは、大人になって初めて判る大切な少年の心だから。

作成:03/02/20

当ページの画像は、星里もちる作、小学館発行の「夢かもしんない」1巻,3巻よりスキャンして使用しております。他に転載及び使用されることは堅くお断りします。