部屋(うち) においでよ

    作 者:原 秀則
    全巻数:7巻
    出版社:小学館
    初版年:1991年7月
部屋においでよ


 W大写真部の塩村ミキオは、5歳年上で、ピアノ教室の講師をしている水沢文(みずさわあや)と出会う。
 ミキオはプロカメラマンを目指すも、思った写真がなかなか撮れずにジレンマの日々を過ごすが、文との同棲生活で癒される。

 文はふとしたきっかけから認められCDを出すことになるが、そんな文の成功がスランプから抜け出せないミキオとの間に歪みを生むことにもなる。

 そんな折り、文は昔の恋人、今泉一也(いまいずみかずや)と偶然出会うことに。一也は一度はピアノを捨てた男だが、夢を、そして、文との時間を取り戻すために、父親の経営する会社を辞め、クラブでピアノ弾きを始める。2枚目のCDでスランプに陥っていた文は、ミキオ・一也・仕事のピアノの狭間で揺れることに。

 一方、ミキオにもチャンスがやってきた。K大W大合同写真展を転機に徐々に才能と努力を認められるようになり、続々と出版社の仕事をこなし、若手写真家として順風漫歩のスタートを果たす。

 文のほうも無事スランプから脱することが出来、コンサートツアーで全国を巡るが、売れっ子で多忙なミキオとはすれ違いな日々。寂しさを感じるもすでにミキオの心の中に文はいない。


 女性読者なら、男ご都合主義と切って捨てるかもしれないが、オーラスで一人部屋を引っ越していく文に涙はない。
 振返ることもなくひたむきに未来へと歩もうとしたミキオの姿を誰よりも愛していたのは他でもない文自身だった筈だから。

 別れのシーンで、「忘れ物はない?」と、涙を隠した笑顔でミキオを送り出す文、文との日々について「そうさ、何でもないどこにでもいるただの男と女だったんだ」と自問しながらも、葛藤するミキオ。

 寂しいけれど悲しくはない別れ。お互いの為、やさしくなってはいけない時がある。そんなやるせない青春の一コマを描いた切なくも爽やかな作品。

 典型的なラブコメの必須要素である「三角関係」や「すれ違い」については、煎じ詰めれば少女漫画であろうと、同じ原秀則の『冬物語』であろうとストーリの骨格である。
 しかし、到達点。ストーリーの終着点が違っている。『冬物語』では夢を追うことが周囲にも幸福を与え、『部屋へおいでよ』では、何かを犠牲にしなければ生きてゆけない"大人の日常"を描いている。このあたりは紫門ふみの作品群を垣間見るような気がする。

作成:01/12/04 加筆修正:02/05/05

当ページの画像は、原 秀則作、小学館発行の「部屋においでよ」1巻,3巻よりスキャンして使用しております。他に転載及び使用されることは堅くお断りします。