冬物語

    作 者:原 秀則
    全巻数:7巻
    出版社:小学館
    初版年:1987年11月
冬物語


 受験生の、森川 光は全ての受験校に落ち予備校生に。

 は予備校で東大受験の雨宮しおりに出会い、彼女にほのかな恋心を抱く。勢いで自らも東大受験コースを選択してしまうはめに。

 しおりの東大への熱意の原動力が、現役東大の学生である恋人、圭一への想いであることを知るは、3流大学でさえも落ちてしまった挫折感とだぶらせながら失意の中、私立文系コースへと変更する。

 予備校ではいろいろなタイプの仲間と出会うであるが、倉橋奈緒子との出会いが彼の浪人生活を少しずつ変えていく。

 1浪の後辛うじて滑り止めの3流大に合格しただが、なんとなく満たされない思いから休学をし、再度受験を目指す。
 一方、東大受験に失敗したしおりは、故郷北海道に一旦は引き返すものの、うすうす感づいていたの自分に対する気持ちへの戸惑いと、圭一に対する想いに揺れながら再び上京し東大を目指す。

 また、奈緒子は慶応の医学部を親への意地から受験し、見事合格するも自らの人生観に相容れないとし、敢えて進学せず職を求める。そんな中、彼女は何とかを支えていこうとするが、光の「低空飛行」は止まらない。


 受験生をモチーフにした青春ストーリとでも言おうか。不安定な時期の心理描写と、進学以外にも人生の価値観を見い出そうとしている微妙な年頃を描いた作品である。

 主人公の森川光は、そんなちょっと大人びた仲間達の中で"仕組み"や"体制"にしがみついていくことの象徴的に描かれており、その対比がくっきりしていて面白い。作者の意図が明確であったかどうか定かではないが、少なくとも私にはそう思えた。

 は、3回目のチャレンジでとりあえず目標校の一つに補欠で受かる。そんな時、一旦はのもとを離れた倉橋奈緒子が再び彼のところへ帰っていくるところや、東大生との同棲の中で色々な葛藤に苛まれながらも見事東大受験に成功する雨宮しおり。このあたりはストーリーとして見せ場を提供していてよく出来ている。

 私自身は浪人というのは経験していないが、この冬物語の舞台である代々木の予備校街には、高校在学中に夕方のコースで通っていたことがある。従って、作中の、教室や学生の雰囲気など妙に懐かしく感じた。実際浪人生の中には地方から上京して通っている人達もいた。見事進学を果たす者、都会の雑踏に紛れて自分自身を失っていく者、人生を見つめ直す機会として新たな旅立ちをする者、僅かではあったがそんな人達を見てきた。
 冬物語は、そんなほろ苦い想い、色々な想いで現実と向き合い始めた彼らへの鎮魂歌のような気がする。

作成:01/06/18 加筆修正:02/05/05

当ページの画像は、原 秀則作、小学館発行の「冬物語」6巻,7巻よりスキャンして使用しております。他に転載及び使用されることは堅くお断りします。