作 者:大谷博子 全巻数:3巻 出版社:集英社文庫 初版年:1998年2月 |
香坂由似(こうさかゆに)は、何かにつけ周囲から亡き母、由布子に例えられながら育つが、このことに諸事トラウマとして悩まされる。
由似に好意を抱く家族や親戚、そして幼馴染の慎二らに、教わり、支えられながらそんな悩みを乗り越え成長していく。
この作品、あらすじ書きが思いきり難しい(上記のありさま)。流れを捉えようとすると枝葉を書かないとおさまらないのである。ストーリー性が無いのではなく、むしろ高密度のドラマのようにストーリがありすぎるのだ。起承転結を求めずに淡々と主人公由似の生い立ちを描き込んでいるからである。
初出は別冊マーガレットに1979年掲載だから23年前の作品。そういった時代感覚のずれを差し引いても、すべてが美化されて語られる耽美主義、男性読者が一番苦手な部分が前面に押出されている。
崇高なヒューマニティーを否定する気はまったく無いが、これでもかといわんばかりに肩に力が入った表現にいささか食傷気味になる。心象風景で語りかける紡木たく作品とはまったくの対極にある説明型。亡き母親に対する周囲の感傷についてほんの少しだけ説明されかけるが、読み手としては母親由布子に似て由似と名づけられた演出をどうにか解き明かして欲しいと思った。むしろこの謎解きで「由似へ・・・」がもっと高みに届くのではないかと思うのだが。