岩明 均

風子のいる店

 内気な性格でどもり癖のある風子は、喫茶店のウエートレスのアルバイトで様々な客達と触れ合っていき、心を開くようになる。学校では不良の田島が風子に近づいてくるが、田島は風子の魅力に気がつき彼自信もまた救われていく。

 作者も後書きで触れているが、喫茶店を舞台にして「連載を続ける」ことに大変苦労したということがなるほどと頷けるほどストーリーは散逸的である。各話、全然笑えないオヤジギャグ的な落としで話が終わったり、爽やかに、またしんみりと終わってみたりと「質」にバラツキが目立つ。おこがましい言い方かもしれないがいわゆる"青臭い"筆致なのである。それでも単行本4冊を読み進められずにはいられないのは、気がつくと読者も喫茶店「ロドス」に風子目当てに来る常連の仲間入りをしているからなのかも知れない。
 決して繊細とはいえず、むしろこうも堂々と男の視点から媚びずに少女を描かれると、男性読者としては安心できるものである。漫画界のキャラクターとしては風子はより中性的である。もっとも現実の世界は皆男らしく女らしく生きている訳では決してなく、風子がより生身の人間として身近に感じられる理由がここにある。
作成:04/04/04


骨の音(傑作集)

 「ゴミの海」「未完」「夢が殺す」「指輪の日」「和田山」「骨の音」、短編6話。

 一世代前の青年コミック誌にしっくり来るようなオムニバス集。悪く言えば地味、よく言えば小説を読んでいるような心地よさがある。
 デビュー作の「ゴミの海」はなかなか力がこもっていてマル。「世にも奇妙な物語」というTV番組がある(あった)が、全話取り上げてもおかしくないかも知れない。
作成:04/04/04


ますむらひろし

銀河鉄道の夜   風の又三郎

グスコーブドリの伝記

 原作は言わずと知れた宮沢賢治であり、ますむらひろし氏が猫を擬人化して原作に忠実に劇画化した作品である。
 恥ずかしながら宮沢賢治の作品を「ちゃんと読んだ」のはこれが初めてである。今回あまりの作品の深さにつられて原作のほうも読んでみたのだが、ますむらひろしの賢治シリーズは本当に原作に忠実であり、シナリオはもとより台詞のどれ一つをとっても違わない。原作の難解さを咀嚼するため、またより豊かに原作を理解するためにますむらひろし氏は緻密な表現力で描いている。
 宮沢賢治の作品は深い哲学的な思想に満ち溢れている。元来科学者だから哲学的な造詣に深いのは頷けることだが、このような芸術とも言える領域に昇華させるところが宮沢賢治の素晴らしさである。

 ますむらひろし氏について思うことは、賢治の作品の理解力、洞察力の深さである。実際、原作と並び進んで読んでいくと、行間に溢れる登場人物達(原作は人間、ますむらは猫)の表情や仕草が心憎いほど機知に溢れて表現されている。また、自然や「銀河鉄道の夜」の仮想的な宇宙空間の描写はみずみずしくかつ想像力に溢れている。これは幾度となく原作を読み、思索を重ねた人が初めて思い浮かべることの出来るような風景である。

 あえて主人公を猫にしたのはどのような理由か知らないが、違和感はまったく無くむしろ自然でさえもある。主人公達である少年の純真さ中性さ、そしてある時は強く東北を意識し、またあるときは無国籍なヨーロッパ風な設定、こういった不思議さを表現するのに擬人化した猫が実によく似合っている。猫の持つ孤高さが、人間の本質にある喜びと悲しみを表すのに適していたのだろうか。

 とかく原作なにがしの世界はコマーシャリズムが深く関わるものだが、ますむらひろしのこれら作品を読むことは宮沢賢治を理解するための最適解に他ならない。また、かつて賢治を読んだ人はきっと新しい発見があるだろう。
作成:03/05/4


森川久美

南京路(ナンキン・ロード)に花吹雪

 外国文化と利権の謀略蠢く1930年台の上海を舞台とした物語。
 新聞記者として上海に派遣された本郷義明は、日中開戦を危ぶむ小此木大佐が組織する地下行動部隊「54号」を率いることになる。
 本郷が上海に来た時からの腐れ縁の黄子満(ワンツーマン)は、日本人の血が流れているが故に「54号」に組するが、反戦が目的であるこの組織に所属しながらも時折中国人の血が騒ぐ自分に気がつく。

 レディースコミック初出の作品である為、読者の受けを狙ってか、美形な男性が多く登場するが、その反面およそレディース誌とは縁の無いような題材を採用したことがかえって読者に新鮮として受け入れられたのであろう。随所に見られる「時代に翻弄された人々の悲しみや痛み」というのはうまく表現されている。異色といえば異色といえるカテゴリーの作品である。
作成:03/04/18


竹宮恵子

地球(テラ)

 ベテラン作家、竹宮恵子が1977年に「月刊マンガ少年」に掲載した少女漫画家の、少年漫画への進出作品である。

 ストーリーの大筋は、地球環境が破壊された未来社会、マザーコンピュータによって管理されながら種を保とうとしている「人類」と、エスパーを持ち「人類」にとっては危険因子である「ミュー」達の戦いの物語である。
 舞台は宇宙であるが故にそれだけでロマンが醸し出されるものだが、「銀河鉄道999」や「宇宙戦艦ヤマト」のようなものとは違って明らかに女性の目から見た戦いを描いているところが竹宮流のロマン。

 地球を追われ望郷募る「ミュー」と、彼らに排他的な「人類」。地球再生の為に敢えて管理社会を選んだ「人類」の苦悩と「ミュー」の望みの終焉は、現代でも世界中で起きているイデオロギーを掲げた戦いの行く末のような気がして空虚感も漂う。

 とにかく感動するポイントは多いが、SFのようで少女漫画のようで不思議な雰囲気を持っている。もし時間があればどなたにでも是非読んでみることを薦めることの出来る作品である。どこかの漫画書評サイトで「死ぬまでに読め!この1冊」というコーナーがあったが、まさに「地球へ」はこれに該当するだろう。
作成:03/03/18


水木しげる

河童の三平

 水木しげるといえば「ゲゲゲの鬼太郎」があまりにも有名であるが、三平をはじめタヌキ・河童・死神ともども皆のんびりしたいい奴揃いでなんとも牧歌的な雰囲気が漂う。
 昭和37年頃の作品とあってさすがに古さは否めないが、自然や人との関わりがおおらかに描かれている。
 4巻に収載された短編、「ねずみ町三番地」「壁ぬけ男」「草」、テーマこそ水木しげるそのものだが、読者の水木に対する既成観念を打ち破るような新鮮さがある。こんな劇画タッチも描いていたのだと。
作成:02/11/22

のんのんばぁとおれ

 昭和初期の鳥取は境港を舞台にした、水木しげる自身の子供時代の自叙伝的な作品。家族や社会、地域がお互いに助け合い寄り添いながら明るく暮らしていく様がユーモラスな妖怪の出現と共に描かれている。
 人情の機微や貧困、社会の矛盾などにも幅広く目を向けて、当時の様子をあますとこなく描き切っている。そこには全てに前向きな姿勢で取り組む人々の姿がある。また、主人公の父親はヒューマニティーあふれる小粋な数々の名言を吐く。
 近代日本が駆け足で時代を走り抜けていったときの忘れ物が一杯つまっているようなそんな1冊。是非子供達に読んで欲しい作品である。
作成:02/11/22


和田慎二

超少女明日香   明日香ふたたび

 画もストーリも手塚治虫の影響が色濃く、少女漫画に対する認識がちょっと変わるかも。さすがに今となっては古さはいかんともしがたいが、いわゆる「4畳半」から生み出されたような訥々とした手作りの生真面目さが感じられる。
 「明日香ふたたび」に同時掲載の「ホットケーキ物語」は、16頁のショートながら感涙ものの1作。

作成:02/04/01


ゆうきまさみ

究極超人あ〜る

 ナンセンス漫画なのだが毒が無くてマルッ!
 写真部のむこうを張った暇人クラブ、「光画部」のアンドロイド少年R・田中一郎と部員や先輩達が繰り広げるドタバタ劇。個性溢れるキャラが多くてついつい読み進んでしまう。
作成:03/05/18


桑田乃梨子

犬神くんと森島さん

 一見普通の男子校生「犬神」くん。満月が近づくと体力アップ、やがて狼男に変身。普段は気弱な彼も恋をする。かたやこちらも一見普通の新任体育教師「森島恵子」。破天荒な彼女は生徒の恋を応援するうちに自ら生徒と思わぬ関係に・・・

 少女漫画の雰囲気でいて、ギャグ主体。前半ちょっとスローペースでだらけ気味だったが、みょーに爽やかなコメディに慣れてくると漫才のボケツッコミの世界に通じるテンポにだんだんはまっていくのである。
作成:04/01/03