スラムダンク

    作 者:井上雄彦
    全巻数:31巻
    出版社:集英社
    初版年:1991年2月
スラムダンク


 主人公、桜木花道(さくらぎはなみち)は神奈川県立湘北高の1年生。お調子もので喧嘩っぱやく、女の子に振られっぱなし。入学早々赤木春子(あかぎはるこ)に一目惚れするが、彼女との出会いが花道の運命を変えることに。
 花道は持ち前の長身と、ずば抜けた体力や敏捷性が春子にみそめられて、また花道も春子に気に入られたいが為に彼女の兄が主将を務めるバスケ部へ入部。

 バスケについてはまったくのシロウトで花道にはつまらない基礎練習の日々が続くが、県のベスト4の強豪、綾南高校との練習試合で、はちゃめちゃながら実戦初体験をする。湘北は善戦するも1点差で届かず。しかし、これが無名だった湘北の名を知らしめることにもなり、今後の湘北の快進撃の予兆でもあった。

 湘北キャプテン赤木鋼憲(あかぎたけのり)の夢は全国制覇。花道の入部と期を同じくして入部または復帰してきた元中学MVPの三井寿(みついひさし)、名PG(ポントガード)の宮城リョータ、そして花道と同じ1年の新入部員、ルーキーの流川楓(るかわかえで)を伴い、夢に向け進み出す。

 インターハイ出場予選で、強豪の翔陽を辛くも押さえ決勝リーグ戦に勝ち進む。海南大付属戦では試合終了直前の花道のパスミスにより敗北を喫し、そのことに一旦は深く落ち込んだ彼だが周囲の助けも借りてバスケットマンとして成長していく。

 続く武里に快勝し(花道この試合遅刻で出番無し)1勝1敗の湘北は、病に倒れた安西監督不在の中綾南との試合を制しインターハイ出場の切符を獲得する。涙にむせぶ赤木鋼憲。

 いよいよ全国区のインターハイ。湘北の緒戦はAランクの豊玉高校。湘北のランクはCと初めから苦しい戦況。巧妙なファウルすれすれの豊玉のダーティープレーに悩まされながらも正攻法のガッツプレーで2回戦へ進める。が、相手は高校日本一のAAAランクの山王工業であった。


 いわゆるスポーツ物特有のウルトラプレーに裏打ちされた勝利への凱歌と違って、いつも淡々と試合は進む。桜木花道も湘北のメンバーもそして相手校の選手もひたむきな汗を流す。花形プレーヤーも当然いるが、地味ながらピリリと光るプレーヤーもいる。そんな若者達の、バスケットボールへの情熱と追憶のエピソードを織り交ぜながら繰り広げられる緊迫のプレーが心地よく読む者をストーリーへといざなう。

 花道・流川の自己顕示欲コンビはシナリオのメリハリにはよく効いているし、他のキャラクターの性格設定にも巧さがある。とりわけ、花道・宮城・三井の三人は「問題児軍団」と呼ばれるだけあってキャラも過去も際立つ。5人という少人数で1チームというバスケットボールという素材が、こういったどのキャラでも主人公になり得る状況でうまく活かされている。

 試合中はまさに手に汗握る進展だが、時たま出現するギャグ落としや、シリアスな絵柄とは対比的なコメディタッチ絵が素直に可笑しさとリラックス感を漂わせ絶妙な脚色。辛気臭く、かつ汗臭くならなかった最大の秘訣であろう。

 スポーツ漫画の典型としては、泥まみれになって努力して友情と勇気を分かち合うようなシリアスなタイプ、または結果重視の技術解説系に2大別されてきたのが従来の手法であろう。「スラムダンク」はそのどちらにも属さない。何故ならば花道たち湘北高のメンバーは日本的な協調プレーよりも個人の主観でプレーしているから。それでいて湘北がチームとして熱気を持ちつづけるストーリ展開は現代的である。大政翼賛的な団体意識から逸脱してもチームは成り立つということを具現しているようで読んでいて痛快である。

 ビジュアル的な部分に言及すると、31巻ほどの大作でありながら初めと終わりでまったく登場人物の顔が変わっていない。普通これほどのボリュームになると結構画風に変化があるものなのだが。唯一赤木春子だけは描きムラというか出るたびに違った顔をしているのは何故なのだろうか。(アシさん任せ?)

作成:02/09/10 加筆修正:02/09/18

当ページの画像は、井上雄彦作、集英社発行の「スラムダンク」8巻,9巻よりスキャンして使用しております。他に転載及び使用されることは堅くお断りします。