いるかちゃんヨロシク

    作 者:浦川まさる
    全巻数:文庫本 4巻
    出版社:集英社
    初版年:2000年7月
いるかちゃんヨロシク


 地方の名門学院、倉鹿修学院の中等部に転入してきた如月いるか(きさらぎいるか)はとんでもないおてんば娘。実は学院長の孫でもある。
 どんなことにも真っ直ぐ取り組む明るい性格のいるかは、持ち前の運動神経とずぶとい根性で勉強以外は何をやらせてもダントツ。

 一方、倉鹿修学院には鹿鳴会なる最強の生徒会組織があり、文武両道秀でた者で構成される。その会長である山本春海(やまもとはるうみ)と伝統の校内陸上オリンピックで互角に戦い、いるか春海と連立の生徒会長になってしまう。

 倉鹿修学院には宿敵のライバル校がある。その但馬館との各種スポーツでのしのぎあいが、いるかや鹿鳴会が絡みながら繰り広げられる。

 文庫本3巻の途中で本編は一旦終了。いるかは親元に戻り、古巣の六段中学(こちらも結構名門校)に。{倉鹿での春海との別れで見せ場一回あり}
 短編の「いるかちゃん元気です」を挟んで、「いるかちゃんヨロシク ハイスクール編」へと突入。今度の舞台は里見学習院高等部。上京して里見に入学した春海だが、入学そうそういるかと共に目立ちまくり。生徒会の不穏な動きを察知した二人だが・・・


 この作品を読むまで「浦川まさる」という作者自体まったく聞いたことがなかったが、りぼんへの初出が1984年であったことを考慮するに随分と斬新な感性で描いていたのだなと感服する。

 何せテンポが良い。少女漫画にこういう方向性があってもいいと思わせるに充分なパワーがある。基本的なストーリーはローティーン向けの内容であるが、ともすれば「女の子かくあるべし」のプロパガンダのような往年の少女漫画界にとっては、子供が本当に楽しめる漫画の出現と評されていいと思う。ちなみに文庫1巻の巻末に浦川まさる同窓の漫画家「本田恵子」のエッセイがありそちらからちょっと引用させていただく。


スピーディーな展開、きちんと描き分けられたそれぞれに魅力的な人物たち、モノローグに頼らず、キメの台詞が効果的。軽快な描写が、勧善懲悪の筋立てを、決してマンネリに思わせない。加えて、絵である。まんまるの大きな瞳の中性的な女の子は、手塚治虫先生の鉄腕アトムを思わせる。アトムは空を飛ぶけれど、いるかちゃんは学園の校舎の廊下をマッハでぶっ飛ぶのである。少年誌でよく見る誇張した表現や、勢いのある効果線が、情感たっぷりの漫画の揃った「りぼん」に初めて登場した時の、わたしたち少女漫画家の 驚きを想像してほしい。前にも述べたが当時は少女漫画の幸せな蜜月だったのだ。そこに、 いわばゲリラ的に現われた浦川作品を、「ついに来たか!」とわたしは思ったのである。
 かと言って、まさるは、繊細な心理描写などの少女漫画ならではの要素を軽んじてはい ない。恋愛を核にして、わずかな風にさざ波立つ水面や、揺らぐ木もれ日のような、この 手にとらえられない微妙な輝きを追究するあまり、少女漫画がともすれば陥りがちな、停 滞性、内向性を、まさるは豪快に笑い飛ばし、一方、要所要所ではキュンとさせる。その 心憎いほどのバランス感覚。まさに、面白うてやがてかなしき(愛しき、と当てよう)、である。

 女の子のご都合主義の極致的(優秀な男達から好意を寄せられスポーツ万能の人気者)ないるかの活躍ぶりだが、本田恵子の説に倣えば、少年誌で、ある時はスーパースターとして、またある時は心底仲の良い友達として感情移入できるキャラが少女誌にも出現したということだ。

 ビジュアル的には、なんといってもいるかのまんまるな瞳は印象的。見開きトップでドーンっと出てくると、瞳の中のグラディエーションが綺麗で、是非連載中のりぼんの色刷りを実物で見てみたかったと思う。それから格好いい男子は皆切れ長の流し目が似合うような奴ばかり。とかく似たような絵が多いりぼん系作品としては特徴があるだろう。

作成:03/07/26

当ページの画像は、浦川まさる作、集英社発行の「いるかちゃんヨロシク」2巻よりスキャンして使用しております。他に転載及び使用されることは堅くお断りします。