空のキャンバス

    作 者:今泉伸二
    全巻数:5巻
    出版社:集英社文庫
    初版年:2001年2月
空のキャンバス


 幼い頃の北野太一はヒーロー気取りで何をやっても右に出る者がなかったが、突然ライバルが現れる。ライバルはオリンピックの体操出場を目指すほどの腕前で、太一は完膚なきまでに差を付けられ、なんとか追いつこうと必死。そんなある日、ライバルが大怪我をしそうな時に、太一は自らの身を挺して彼をかばい脊髄に大怪我をする。
「いつかきっと、君よりすごい技をやってそして勝ってみせる。だからおまえにはこんなところで死んでもらうわけにはいかない。男と男の約束だぞ」と言いながら。

 全身麻痺から奇跡的な回復を遂げた太一は、体操を極めるため清流学園へと入学し、コーチの家へ下宿することになった。ところが、コーチの娘で女子ジュニアチャンピオンの赤城榛名こそ幼少時の太一のライバルであった。榛名は昔の太一にすぐ気づくが、太一はかつてのライバルが女の子であったことなど気づかずに、ライバルの幻影を追い求め体操に賭ける日々が始まる。

 太一の体は確実に病魔に蝕まれながらも気力で試合を勝ち抜いていくが、やがて限界に達し手術を受ける。
 術後記憶を失った彼は、周囲の薦めや榛名の支えを受けて再び体操を始める。ある日、かつてライバルをかばっって大怪我をした木駄町の公園で、彼は全てに気づく。自分の過去の記憶もライバルが榛名だったということも。
 それでも病魔は彼を許さない。死期を悟ったそんな太一を世界選手権の舞台が待ち受ける。


 今泉伸二の連載デビュー作。初出は週刊少年ジャンプに1986より掲載。少年漫画っぽい「おふざけ」や、ヒロイン榛名の爽やかなお色気「チラリズム」とともに話は進む。
 ずっこけキャラの太一であるが、幼年時代からのライバルに対する真摯さがストーリーの屋台骨。不治の病と戦い、自らの死期を悟りながらもひたむきに生きていく様に胸が打たれる。現実的にはナンセンスな設定であるが、とかく汗臭ささにまみれてしまうスポ根ものとは明らかに違った視点で演出している部分は素晴らしい。また、榛名太一に対する愛情(友情)が太一のひたむきさとあいまって読む者の涙を誘う。

 作者自身が体操の経験者であり、競技について、またスポーツマンのヒューマニズムについてよく理解しているが故に、重いテーマながらも湿っぽくならない展開。またヒロイン榛名の、太一に寄せる愛の深さが小手先の表現ではなくしっかり描かれているところは実に好感が持てる。ラストは涙無しには読めないだろう。

作成:02/06/05

当ページの画像は、今泉伸二作、集英社文庫発行の「空のキャンバス」4巻,5巻よりスキャンして使用しております。他に転載及び使用されることは堅くお断りします。