ぼくたちの疾走

    作 者:山本おさむ
    全巻数:15巻
    出版社:双葉社
    初版年:1982年1月
ぼくたちの疾走


 下山安夫と風間妙子は一応カップルなのだが、良き青春の同胞でもある。下山を囲む仲間は、豆腐屋の息子の圭介、普通の大学志向の輝樹、成績優秀なのに親や人生に失望して、自殺してしまう小島和子。下山は、そんな仲間たちと共に生きながら様々なことを学んでいく。


 「遥かなる甲子園」「どんぐりの家」などが山本おさむの代表作であり、彼が漫画を描く目的は、障害者をテーマにしたこれら作品にあるとばかり思っていたのだが、駆け出しの頃は「ぼくたちの疾走」のようなみずみずしい感性の作品を創っていたのだ。

 「ぼくたちの疾走」の舞台は恐らく昭和50年代の東京の都立高校だと直感している。なぜそう感じるかというと、私自身が同じ時代同じような高校に通っていたからである。当時の都立高校は群制度の入試体制により没個性、学力の2極分化の時期を迎えていた。団塊の世代から一巡した次のグループだった私達は、先輩達が掲げて勝ち取っていった自由を労せずして享受していたものだった。その一つの現れが私服登校であり、学校帰りに街に繰り出してある時はちょっぴり大人の振りをして飲んだりと、いわゆるプチ大学生風のまさに「下山」のようなモラトリアムな日々を過ごしていたわけである。

 下山は、風間妙子と小島和子といったまったく違った境遇の女性と関係をもっていくが、何といっても11巻で小島が自殺するくだりは山場であり、下山の鬱積している葛藤を表目化させるシチュエーションで作者の力も特に入っている。
 結局生真面目なのだ。山本おさむという人は。下山を囲む各キャラの顔立ちも思いっきり明確に描き分けているし、彼らの感じる悩みや苦しみは妙に生々しく感じ取ることが出来る。青春のアンソロジーとして深く共鳴できる。作者の想いがこんなにひしひしとのしかかってくる漫画も少ないだろう。

作成:04/02/23

当ページの画像は、山本おさむ作、双葉社発行の「ぼくたちの疾走」2巻よりスキャンして使用しております。他に転載及び使用されることは堅くお断りします。